安心育児のために社会保険労務士ができること

育児に伴う社会保険について分かりやすく解説します

初めての産休・育休を社会保険労務士が分かりやすく解説【労務担当者目線】

「産休・育休が初めて発生したけど社会保険手続きが複雑でよく分からない・・」

「いつ、どこに、何を提出したらいいのかさっぱり分からない・・・」

 

中小企業の労務担当者からこんな悩みをよく聞きます。

 

そこで、今回は産休・育休の必要手続きを社会保険労務士が時系列に沿って、できるだけシンプルに解説していきます。

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※この記事内では、下記のモデルケースを前提に解説していきます。

1.産前産後休業・育児休業の全体像

産前産後休業と育児休業の概要について


- 産前産後休業とは、出産日前の42日、出産日以後56日のうち、妊娠・出産を理由として勤務しなかった期間を指します。


- 育児休業とは、原則1歳未満の子どもを養育するために仕事を休む制度です。雇用保険の被保険者には育児休業給付金が支給されます。「保育園に入園できなかった」等の特別な事情がある場合は、最大2歳まで育児休業が延長されます。


- 産前産後休業期間・育児休業期間ともに社会保険料は免除されますが、そのためには社会保険料の免除申請を提出する必要があります。


- 社会保険料の免除申請は、期間ごとに提出する必要があります。つまり、産前産後中に1回(場合によっては2回)、1歳までの育児休業中に1回、育休を延長する際にもその都度提出する必要があります。

 

2.産前産後休業

①産前産後休業取得者申出書

産前産後期間に対する、社会保険料を免除するために提出する申請書です。

 

原則は、産前休業に入ったタイミングで1回提出し、さらに子供が生まれたタイミングで再度提出する必要があります。

 

ただ、子供が生まれたタイミングに1回だけ提出するというケースもあります。

この場合における日本年金機構より毎月請求される社会保険料については、書類提出後に産休を開始した月まで遡って精算(社会保険料還付)されることになりますのでご安心ください。

 

なお、給与計算においての社会保険料の徴収を止めるタイミングにについては注意が必要です。

②出産手当金

産休中に給与が支払われない場合に「協会けんぽ」から支払われる給付金です。

金額は過去12か月の給与(標準報酬月額)を基準とした日給の2/3になります。(出産手当日額×休業日数)

 

申請用紙には医師の証明欄がありますので、産前休業に入る前に対象者に申請書類を渡しておくことをお勧めします。

 

出産育児一時金

健康保険の被保険者が出産した時に「出産育児一時金」が支給されます。

支給額は令和5年4月より42万円→50万円に引き上げられました。

(※妊娠週数が22週に達していないなど、産科医療補償制度の対象とならない出産の場合は、支給額が48.8万円となります。)

 

出産育児一時金における重要なポイントは出産する病院において「直接支払制度」を利用するかどうかということです。

 

直接支払制度とは、出産した被保険者を介さず、加入している「協会けんぽ」から、直接出産した医療機関出産育児一時金が支払われる制度のことです。

 

この方法を利用した場合、出産費用が50万円を超えている場合は、窓口負担は(出産費用-50万円の)差額のみとなります。

 

なお、出産費用が50万円に満たない場合は、協会けんぽに対して差額分の支給申請を行う必要がありますのでご注意ください。

 

④健康保険被扶養者異動届※子供を扶養に入れる場合

生まれた子供の健康保険証を発行する手続きになります。

 

夫婦両方が健康保険の被保険者の場合は、原則は収入が多い親の被扶養者とします。

 

健康保険証の発行に関わる手続きですので、出産後なるべく早めに手続きを行いましょう。

 

3.育児休業

育児休業者取得者申出書

育児休業期間に対する社会保険料を免除するための申請です。

育児休業期間に入ったタイミングで提出する必要があります。

 

このタイミングで申請書を記載する際、「育児休業の終了年月日」欄については最大でも「子供の1歳の誕生日の前日」までとなりますのでご注意ください。

 

もし、育児休業を延長する場合は、そのタイミングで再度、「育児休業取得者申出書」の延長申請が必要になります。

 

また、当初記載した「終了年月日」より前に職場復帰をする場合には、「育児休業取得者申出書(終了)」の提出が必要になることも押さえておきましょう。

 

育児休業給付受給資格確認票・(初回)育児休業給付金支給申請書&⑦休業開始時賃金月額証明書

育児休業期間中にハローワークから給付金を受給するための申請です。

 

育児休業に入ってから2~3か月後の手続きになります。(出産日から数えると4~5か月後の手続きになります)

 

育児休業給付受給資格確認票・(初回)育児休業給付金支給申請書」と「休業開始時賃金月額証明書」の2つの書類は実務的には同時に提出するのが一般的です。

 

提出する際には、下記添付書類が必要となります。

最も注意が必要な点は、育児休業給付金の申請には「申請期限」があるということです。

例えば、初回申請の申請期限は「育児休業開始日から4か月後の末日」となっています。

育休者の大切な所得補償になりますので、必ず申請期間内に手続きを完了させましょう。

 

4.育児休業の延長

育児休業者取得者申出書(延長)

育児休業期間を延長する際は、「育児休業者取得者申出書(延長)」を提出する必要があります。

 

この書類を提出することで、対象者の社会保険料の免除期間が延長されます。

 

例えば、1歳のタイミングで2歳までの延長が決まっている場合でも、1歳から1歳半、1歳半から2歳とそれぞれの区分に対して「育児休業者取得者申出書(延長)」の提出が必要となりますのでご注意ください。

 

育児休業給付金申請書(延長)

育児休業給付金の延長申請には特定の理由が必要になります。

その理由は次の5つです。

これら5つのうち、いづれかに該当した場合に1歳以降の育児休業が延長されます。

 

ただ、実務的にはほとんどのケースが「①保育園に入園できない場合」となりますので、今回はこのケースにしぼって解説していきます。

 

まず、添付書類としては、保育所の入所不承諾通知書コピー」が必ず必要になります。

 

そして最も重要なポイントはその入所不承諾通知書に記載されている「申込日」「入所希望日」です。

 

大前提として、育児休業給付金の支給対象期間延長の対象は、職場に復帰するために保育所等の入所を希望し申込みをしたが、子供の誕生日の翌日に入所できない場合に限定されています。

 

つまり、以下の2つが要件となります。

・入所可能か市区町村に問い合わせをするだけでは支給対象期間延長は出来ません。必ず入所申し込みが必要です。

 

・問い合わせの結果、希望日に入所出来る可能性が低いことがわかったため、申し込みを行わなかった場合、支給対象期間延長はできません。

 

・入所申し込みの際に入所希望日を1歳の誕生日の翌日以降とした場合も支給対象期間の延長はできません。(一部例外あり)

 

1歳6か月になっても保育所に入園できなかった場合

1歳6か月になっても保育所に入園できない場合は、上記と同様の手続きが再度必要になります。

なお、育児休業給付金の延長は最大で2歳までとなります。

5.職場復帰後にやるべきこと

育児休業等終了時報月額変更届

職場に復帰した場合は、社会保険料免除期間も終了することから当然、「健康保険料」と「厚生年金保険料」の徴収が再開されます。

 

この職場復帰直後の「健康保険料」と「厚生年金保険料」は、実は産休に入る前の「標準報酬月額」を基に計算されているのです。

 

しかし、職場復帰した際は「育児時短勤務」を適用しているため、お給料は下がるのが一般的です。

 

したがって、育児休業から復帰した直後に現状の給与額に合わせて社会保険料を特例的に引き下げるのが、この手続きです。

 

通常の月額変更手続きと異なる点は、1等級でも変動があれば「育児休業終了時月額変更」は行えるということです。

 

⑪養育期間標準報酬月額特例申出書

将来受給する年金額には、保険料徴収の計算の基にもなっている「標準報酬月額」が大きく関わっています。

 

前述の「育児休業終了時月額変更」において、標準報酬月額を下げて現状徴収される社会保険料を安くすることは可能です。

 

ただ、社会保険料を安くしたことにより将来の年金額も減少してしまうともなれば、育児という次世代の命を育む大切な行動が年金受給の面においては不利に作用してしまいます。

 

それを解消するために、提出する書類が「養育期間標準報酬月額特例申出書」になります。

ザックリ簡単に説明すると「実際に給与から引かれる社会保険料を下げても、将来受給する年金額の計算をする際には特例的に産休に入る前の(高い)標準報酬月額とみなして年金計算します」という趣旨の制度です。

 

提出する際には下記の2つの添付書類が必要になります。

 

6.まとめ

産休・育休手続きは対象者が安心して育児に専念するための大切な所得補償となります。これらの手続きを企業は速やかに漏れなく処理していく必要があるのです。

 

残念ながら、手続きの遅滞や漏れ等により従業員との信頼関係が損なわれてしまうケースも見受けられますので、事前にスケジュール管理をしたうえで、適宜手続きを進めていきましょう。

 

最後までお読みいただき誠にありがとうございます。

この記事がご担当者様のお役に立てていれば幸いです。

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